ISO審査員が思うこと(1) ―ISOが疎まれる理由 その1
「しかたなくISOをやってます」
「ISOなんてやる必要あるの?」
こういった意見を時々耳にします。
耳にするのは“時々”ですが、おそらくほとんどの人がそう思ってるのでしょう。
いや、むしろごく一部の人だけがISOマネジメントシステムを有効だと思ってるだけなのかもしれません。
わたしは審査機関に属してISO14001の審査員をしています。
また、一般の事業会社に所属してサステナビリティの仕事もしています。
つまり、リスク管理の体制をチェックする側と構築する側の両方の立場で仕事をしています。
そういうわたしからすると、ISOマネジメントシステムは非常に有効なツールだと思っています。
ただ、よく理解せずに利用すると逆効果を生む危険性があります。
今回は、そんなISOが疎まれる理由について、わたしなりに思うところを書いてみようと思います。
実際にISOの規格書に触れたことのある人は少ないかもしれませんが、読んでみると非常に難解な文章で書かれています。
ISO規格は、元々は外国語(英語や仏語など)です。
日本語訳もあるのですが、残念ながら完全な直訳で、日本語として意味不明な文章です。
また、グローバル規格であるがために、あらゆる国の、あらゆる業種、あらゆる規模の組織に対応するようにできています。
その結果ぼやーんとした曖昧な表現になっていて、それに加えてごりごりの直訳ですから、読むに堪えない文章になって当然ともいえます。
今でもときどき数名の審査員が集まってオンライン勉強会をしているのですが、審査員ですら理解していない人はゴロゴロいる状況です。
実際わたしも審査の中で、「あ、なるほど。規格で書いていることはこういうことか!」という発見がときどきあります。
それくらい奥深い規格なのです。
ISO認証を取得する組織はそれ専門の担当者をおいてる場合がほとんどですが、そんな具合ですから、実際にISO規格を十分に理解している担当者はゼロといっていいくらいです。
じゃあ企業のISO担当者はどうするか。
お金のあるところはコンサルの力を借りるでしょう。
そうでないところは、セミナーに参加したり他社事例をネットで調べたりしながら、見様見真似で取り組むことになります。
ただ、いずれにしてもISO規格を完全に理解するのは困難です。
しかし会社からは、「なんとしてもISOの認証を取得しろ!」とプレッシャーをかけられてますから、わからないなりにも何とか頑張ります。
するとどうなか。
よくあるのが書類武装。
つまり、審査のときに「やってません」とか「その書類はありません」といったことにならないよう、あらゆる書類を作成し過剰に準備するわけです。
普段の仕事であれば、「そんな書類は要らんだろ」と文句もいえるのですが、ISOの取得は会社としての命題ですから、これに関しては作らざるを得ません。
わたしからすると、「その書類は要らんだろ」と思うことも多々あるのですが、審査員によっては安全サイドで判断して、書類過多の状況を是認するケースもあると思います。
これが、ISOが疎まれる原因の一つです。
原因はもう一つありますが、それについてはまたどこかでお話しします。